コヒーレント回折イメージング(coherent diffraction imaging; CDI)は、ナノメートルからマイクロメートルサイズの微小な試料を対象としたイメージング手法です。試料のサイズや必要な分解能に応じて、1 μmまたは100 nm集光ビームを利用して測定を行います。
基本性能・成果
共用装置
ここでは、CDI実験の共用装置である MAXIC(Multiple Application X-ray Imaging Chamber) を利用した成果を紹介します。現在では以下の2種類の後継機が共用装置として稼働しています。
MAXIC-II
主にサブミクロンスケールの試料を対象にした装置で、MAXICの基本性能を引き継ぐものです。試料を 1 μm集光ビームで照明し、10 nmオーダーの分解能(q < 0.1 nm-1 @4 keV)でX線回折像を記録します。ナノ秒光学レーザーを利用したポンププローブ計測も可能です。
MAXIC-S
装置に内蔵された集光ミラー光学系により、試料を 100 μmビームで照明することが可能です。最小で約2 nmの分解能(q < 0.5 nm-1 @4 keV)でX線回折像を記録します。
参考文献:
C. Song et al., J. Appl. Cryst. 47, 188 (2014).
測定例:生きた細胞のイメージング
北海道大学の西野教授の研究グループは、マイクロ液体封入アレイ(micro-liquid enclosure array; MLEA)の中の Microbacterium lacticum 細胞を対象としたCDI実験を行いました。 MAXICを利用した測定により、生きた細胞の内部を可視化することに成功しました。


[2014年1月7日プレスリリースより]
実験装置
MAXIC-II
MAXICの主な機能を引き継ぐとともに、光学レーザーを利用したポンププローブ計測のための機能が追加された装置です。本装置の基本構成要素として、真空チャンバー内に2組の4象限スリットと試料マニピュレーターが 設置されています。必要に応じて、チャンバー内の光学ブレッドボード上にポンプレーザー用の光学素子をレイアウトすることも可能です。
基本的に、チャンバーはビームラインの汎用集光システムに接続され、マイクロX線ビームを利用して測定が行われます。ビームラインの光学系からの 寄生散乱X線 は、チャンバー内の2組の4象限スリット によって除去されます。試料からの回折X線の検出には、MPCCD検出器を利用します。
試料は、 多くの場合 窒化ケイ素薄膜などに担持され、 試料マニピュレーター に搭載されます。XFELパルスを照射された試料は破壊されてしまうため、照射するごとに新たな試料を照射位置まで移動させます。チャンバー には試料を観察するための顕微鏡が備えられており、照射位置の調整などに利用されます。


MAXIC-S
この装置は専用の多層膜集光ミラーを内蔵し、スポットサイズ100 nm程度のXFELビームを試料に照射することができます。高強度の集光ビームを利用することで、試料の高分解能イメージを取得することが可能です。集光ミラーの他には、2組の4象限スリット、試料マニピュレータ、試料観察用顕微鏡、試料交換用ロードロック装置などが備えられています。
※MAXIC-Sは、北海道大学の西野吉則教授のグループとの共同開発により整備されました。 また、SACLA基盤開発プログラムの課題として高度化が行われてきました。
参考文献:
T. Koyama et al., Microsc. Microanal. 24, 294 (2018).

検出器
コヒーレント回折像を記録するためにMPCCD検出器を使用します。広角領域をカバーするOctal MPCCD検出器と小角領域向けのDual MPCCDをタンデムに配置し、広い角度範囲で回折像を記録します。
運転パラメーター(EH3&4b@BL2)
CDI実験は、主にBL2のEH3&4bで行われています。
XFELパラメータ
| 光子エネルギー(基本波) | 4-20 keV |
| パルスエネルギー | 光子エネルギーに(下図参照) |
| エネルギー幅(ΔE/E) | ~0.5%(ニ結晶分光器なし) |
| 繰り返しレート | 30 Hz(BL2&3同時運転時) |
参考文献:
M. Yabashi et al., J. Synchrotron Rad. 22, 477 (2015).
K. Tono et al., J. Synchrotron Rad. 26, 595 (2019).
(参考)光子エネルギーとパルスエネルギー・光子数の関係(BL3の場合)

光学レーザー特性
EH3ではナノ秒とフェムト秒の光学レーザーを利用可能です。
| グリーンレーザー Minilite, Continuum | 光パラメトリック発振器* NT232, Ekspla | |
| Wavelength | 532 nm | 532 nm |
| Max. Pulse Energy | ~20 µJ | 波長に依存(下図参照) |
| Pulse Duration | 3-5 ns | 2-5 ns |
| Rep. Rate | 10 Hz | 30 Hz |
*光パラメトリック発振器(OPO: Optical Parametric Oscillator)のパルスエネルギーは波長に依存します。

光パラメトリック増幅器(OPA: Optical Parametric Amplifier)からの光を利用可能です。使用可能な波長域は0.25-2.6 µmで、下図のようにパルスエネルギーは波長に依存します。

計測器配置
MPCCD検出器の標準的な配置
| MPCCD Octal | MPCCD Dual | |
| センサーエリア | 110 mm x 110 mm | 52 mm x 52 mm |
| MAXIC-II 標準的なカメラ長 | 1.5 m | 3 m(EH3に設置) 9 m(EH4bに設置) |
| MAXIC-S カメラ長 (固定) | 0.32 m | 1.6 m |
測定までの調整作業
ビームタイム前までにSACLAのスタッフが行うこと
以下の作業はビームタイム前にSACLAのスタッフが行います。
- 装置を実験ハッチに搬入
- XFELのスペクトル測定、光軸調整
- XFEL集光光学系の調整
- 4象限スリットのアライメント(租調整)
同期レーザーを使用するポンププローブ型実験の場合は、以下の作業も SACLAのスタッフが行います。
- 同期レーザースペクトル、光軸、集光の調整
- XFELと同期レーザーのラフな位置合わせ
- 高速PDを使ったXFELと同期レーザーのタイミング調整
ビームタイム開始後にユーザー自身が行う主な操作
CDI実験を行うために、ユーザー自身に行っていただく実験操作を以下に示します。
- 試料交換とそれに伴う真空チャンバーの開閉や排気操作
- 4象限スリットのアライメント(租調整)
- 試料位置の調整
- XFELと同期レーザー照射位置の精密調整(ポンププローブ型実験の場合)
測定手順
測定の流れ(MAXIC-IIの場合)
- マニピュレーターに試料をマウントする。
- MAXIC-IIチャンバーの真空排気を行う。
- チャンバーに備え付けの長作動顕微鏡を利用して、試料をX線照射位置に対してアライメントする。
- 試料のスキャンのためのパラメーター(照射位置の座標など)を設定する。
- MAXIC-IIチャンバーと検出器との間のゲートバルブを開放する。
- RunControl GUIを用いて試料のスキャンと回折像の記録を開始する。
- チャンバーを大気開放して試料を取り出す。
