500TWレーザー(高エネルギー密度科学)

XFELと最大出力500TWのフェムト秒ハイパワーレーザーを同時に利用することで、例えばハイパワーレーザーが作り出す極限環境を超高速に診断することが可能となります。本ページでは、相互利用実験施設内のBL2 EH6におけるフェムト秒ハイパワーレーザー利用実験について紹介します。

参考文献:
T. Yabuuchi et al., J. Synchrotron Rad. 26, 585 (2019).

基本性能・成果

フェムト秒ハイワパーレーザー特性

フェムト秒ハイパワーレーザーの標準的な運転条件における特性を、下図にまとめました。左から順に、エネルギー安定性、パルス幅、時間コントラストの測定例です。

フェムト秒ハイパワーレーザー集光特性

下図では、定格エネルギーである10 J級まで増幅したレーザーを減衰させ、パルス圧縮器で40 fs程度まで圧縮した後に、焦点距離1.2 mの軸外し放物面鏡で集光した際の集光スポット像とその重心位置の揺らぎを示しています。

XFEL-レーザー時間同期特性

XFELとレーザーのサンプル位置での時間同期精度に関しては、短時間(3分間)の測定ではおよそ20 fs (rms)が達成されています。一方で、長時間の測定では数百 fs / h程度のドリフトが確認されており、このドリフト抑制に向けた開発・試験が現在進められています。

実験装置

試料チャンバー

フェムト秒ハイパワーレーザーを用いた実験では、実験ハッチ内に常設されている大型真空チャンバー内にサンプルを設置します。この試料チャンバー内でフェムト秒ハイパワーレーザーとXFELがサンプルに照射されます。

試料チャンバー概観
試料チャンバー内部 セットアップ例(右手に見えるのがf1.2m軸外し放物面鏡)

サンプル駆動機構及びサンプルホルダー

試料チャンバー内には、固体サンプルを保持、調整するための駆動機構が常設されています。ハイパワーレーザーを使用した典型的な実験では、固体サンプルは1ショットで破壊されるため、ショットの都度サンプルをレーザー照射位置(レーザー-サンプル相互作用点)に設置することが必要です。

個々の固体サンプルは、有効エリアが3 cm四方のサンプルホルダーに固定して、駆動機構最上部の円盤型サンプルプレートに取り付けます。サンプルホルダーは、サンプルプレートに最大5または6枚を同時に取り付けることができます。サンプルホルダーは、実験に使用されるサンプルの形状や特性、また計測器の配置などに応じて適切に設計・製作される必要があります。

施設整備の標準計測器

発光X線スペクトロメーター
  • XFELまたはレーザーのサンプルへの照射により発生するX線のスペクトル測定に使用。
  • 大気中に設置されたMPCCDを検出器として使用。
  • 真空中の電動ステージに取り付けたPETまたはHOPG(高配向性熱分解グラファイト)をx分光結晶として使用。
  • 分光結晶位置を変えることで、検出波長範囲を選択(対応波長域はおおよそTi〜GeのKα〜Lyαの一部を選択)。
球面結晶X線イメージャー
  • XFELまたはレーザーの銅サンプルへの照射により発生する銅のKαX線のイメージングに使用。
  • 結像には、真空中に設置された球面石英結晶(R = 500 mm)を使用し、倍率は約7倍。
  • 検出器には、大気中に設置された直接照射型X線CCDカメラを使用。
高エネルギー電子スペクトロメーター
  • ハイパワーフェムト秒レーザーのサンプルへの高強度照射により発生するMeV級の高エネルギー電子のエネルギースペクトル測定に使用。
  • エネルギー測定領域は、数MeVから最大40 MeV程度まで対応。
  • 磁気回路にて偏向された電子が蛍光体に突入した際の蛍光像を、大気中に設置した可視CCDカメラで撮像することで、シングルショットでのスペクトル測定が可能。

運転パラメータ(EH6@BL2)

XFELパラメータ

光子エネルギー(基本波) 4-20 keV
パルスエネルギー光子エネルギーに(下図参照)
エネルギー幅(ΔE/E)~0.5%(ニ結晶分光器なし)
繰り返しレート30 Hz(BL2&3同時運転時)

参考文献:
M. Yabashi et al., J. Synchrotron Rad. 22, 477 (2015).
K. Tono et al., J. Synchrotron Rad. 26, 595 (2019).

(参考)光子エネルギーとパルスエネルギー・光子数の関係(BL3の場合)

X線集光特性

下記のCRLsを利用することで、XFELと500TWレーザーの光軸交点上に試料を固定したまま、実験に合わせて試料上の集光X線ビームのスポット径を調整することが可能です。

Optical parameters (CRLs)
MaterialBeryllium
Shape of lensesParaboloid
Radii of curvatures (R)500, 1000, 1500, 2000 µm
Maximum number of lenses63 with R = 500 µm
3 with R = 1000 µm
3 with R = 1500 µm
3 with R = 2000 µm
Focal length3 m
Spatial acceptance > 1.3 mm
Divergent angle > 0.2 mrad*
Typical focal size @10 keV~3 µm FWHM*

*使用するレンズの数や波長に依存します。

参考文献:
T. Yabuuchi et al., J. Synchrotron Rad. 26, 585 (2019).

光学レーザー特性

ハイパワーフェムト秒レーザー
Wavelength800 nm
Pulse Energy (Max.)~8 J*
Pulse Duration (Typ.)~40 fs
Rep. Rate1 Hz

*記されているエネルギーはパルス圧縮後の値です。

標準的な実験配置

これまでに実施されたX線計測手法と実験配置の例

イメージング計測
  • XFELをプローブ光とした、ハイパワーフェムト秒レーザ照射サンプルのX線イメージング。
  • 間接照射型高分解能X線カメラまたは持ち込みX線CCDカメラなどの高いピクセル分解能を有する検出器を使用。
  • 必要に応じてCRLによる集光XFELの利用と、検出器をサンプルから遠方(最大4m)に設置することが可能。
散乱計測
  • XFELをプローブ光とした、ハイパワーフェムト秒レーザ照射サンプルからの散乱X線計測。
  • 大気中で大面積(2チップ)のMPCCDカメラを使用。
  • 散乱XFELの測定領域は、試料から最短1mの位置にある真空ウィンドウで制限される(実績のあるBe窓付き真空フランジの寸法はICF152、有効開口は75mm)。
分光計測
  • ハイパワーフェムト秒レーザー照射サンプルによるXFELプローブ光のスペクトル変調計測。
  • 試料チャンバー下流側にて高分解能なX線分光器を設置。

標準計測器以外の計測器類の設置

試料チャンバー内またはその周辺に実験ごとに必要な装置を配置することが可能です。ただし、XFELや光学レーザーの調整に必要な装置や既存の標準計測機器との干渉などがない配置をとる必要があります。
また、SACLA保有の装置以外に独自の装置を持ち込まれる場合、特に真空チャンバー内に持ち込み装置を設置することを希望される場合は、使用可能な機器の仕様に条件があります。

したがって、実験セットアップの検討及び使用装置の評価、決定に長時間を要する場合があります。持ち込み装置の有無に関わらず、希望されるセットアップのフィージビリティについては、課題申請前にXFEL利用研究推進室(sacla-bl.jasri@spring8.or.jp)までお問い合わせください。

作業分担および測定までの調整作業

基本的にSACLAのスタッフが行うこと

  • 施設側計測器初期アライメント
  • XFELビームライン調整(スペクトル測定、光軸調整)
  • フェムト秒ハイパワーレーザー光路調整
  • XFEL初期集光調整
  • フェムト秒ハイパワーレーザー集光調整
  • フェムト秒ハイパワーレーザー-サンプル相互作用点決定
  • XFEL-ハイパワーレーザータイミング調整(GaAsを用いた時間原点の決定)
  • ハイパワーレーザーエネルギー調整
  • 試料チャンバー真空排気、大気開放

基本的にユーザーが行うこと

  • 持ち込み装置設置・アライメント
  • 常設装置・計測器精密アライメント
  • サンプルアライメント
  • サンプルへのXFEL及びハイパワーレーザー照射
  • XFELの輝度調整

測定開始までの事前準備・初期調整(ビームタイム初期)

  • フェムト秒ハイパワーレーザーの調整(実験に使用するレーザー条件に適したパラメータ確認など)
  • 施設側計測器の設置、調整
  • ユーザー持ち込み装置の設置、調整
  • XFEL、フェムト秒ハイパワーレーザーの試料チャンバー内への導入
  • XFELの集光スポット測定
  • 高速PDを用いたXFELとフェムト秒ハイパワーレーザーの時間同期
  • サンプルアライメント手法の確認、確立
  • 計測器・装置の動作確認、信号確認
測定手順

定常モードでのサイクル(1日毎または試料チャンバー開放毎)

現在のところ、フェムト秒ハイパワーレーザーを利用した実験では、ビームタイム開始後の初期調整が終わった後も、施設側担当者が行う作業とユーザーが行う作業が継続して発生します。試料チャンバー内に一度に設置できるサンプル数や実験条件維持の観点から、ユーザーのデータ取得ショットが開始された後は、およそ1日(2シフト)を基準とした以下のサイクルで実験が行われています。特に、このうち6-8の作業については、実施可能な時間を原則10am-10pmの間に限定しています。

  1. 試料チャンバー内サンプル駆動機構へのサンプル取り付け
  2. 試料チャンバー真空引き
  3. XFEL集光調整
  4. フェムト秒ハイパワレーザーとサンプルの相互作用点決定
  5. サンプルアライメント
  6. フェムト秒ハイパワーレーザー立ち上げ、集光調整
  7. XFELとフェムト秒ハイパワーレーザーの時間原点決定
  8. データ取得ショット
  9. 試料チャンバーパージ

サンプル事前アライメント

個々の固体サンプルを連続してショットするため、データ取得ショットに先立って、個々のサンプルをアライメントし、そのステージ位置を記録します。サンプルのアライメントには、XFEL、ハイパワーレーザーと同軸のアライメント光(800 nm LD)を光源とし、各種カメラを使用することができます。

データ取得ショット

XFELとハイパワーフェムト秒レーザーを使用したデータ取得ショットは、ユーザー自身による操作で実施します。この標準的な作業に対応した以下の各種スクリプトが用意されています。基本的な検出器はショットに同期したトリガーにより動作し、そのデータにはSACLAのHPCを利用してアクセスすることが可能です。(持ち込み検出器、間接照射型高分解能X線カメラなどはローカルPC上での制御、データ保存となります。)

  • 事前アライメントで決定した位置にサンプルを移動
  • XFEL単独のシングルまたはマルチショットを実施
  • ハイパワーフェムト秒レーザー単独のシングルショットを実施
  • XFEL及びハイパワーフェムト秒レーザーの同時シングルショットを実施